Ordinary Song

(1日ずれのまま当分進みます)

夏の夜ともなれば虫が多い、というのは鉄板なわけであるが、なんだか我が家は今年の夏は異常なまでに虫が多い、ような気がする。

主に蜘蛛である。こいつらは年がら年中糸ばっかり張りやがって蜘蛛の巣だらけになってしまうのだが、この季節、あんまりだぜ、ってくらいに蜘蛛の巣だらけの我が家である。

喫煙せん、とヴェランダに出てみれば物干し竿の間に、昨日はなかったのに蜘蛛の巣が。車に乗り込もうとすれば隣の車(!)との間に蜘蛛の巣が。1日の業をなし終えて帰宅して玄関に入ればいきなり誰よりも早く蜘蛛の巣がお出迎え。風呂に入ろうと洗面所の扉を開ければそこには蜘蛛。お前等頑張りすぎだ!!

しかし蜘蛛には蜘蛛の生活があるわけで、もしかしたら私たちのことをお前等頑張りすぎだ、と疎ましく思っているかも知れない。そう考えると非常に忍びなかったりもするのだが、それでもこちらにもこちらの生活があるわけで、そっとティッシュペーパーに包んで窓の外に解放してやる、というよくよく考えてみれば偽善的なのかも知れないけれども、そういう殺生を避ける方法で蜘とを対峙している日々である。

しかし蜘蛛って殺せないのである。世の中の蚊は全て殲滅してやりたい、考えられうる最も残虐な方法で殲滅してやりたい、ディスイズジェノサイド、とDavid Bowieばりの勢いで向っていく私であるが、蜘蛛は殺せない。何だか縁起が絡んでくるし、何よりもさ、蜘蛛一匹助けてやっただけで地獄から抜け出すチャンスを与えられた人間だって古にはいたし。ほら、あの自殺してしまった文学者の、とか書いてたらうおお目の前に蜘蛛が!

と凄いオチがついたところでThe Little Onesの「Morning Tide」を聴く。ミニアルバムとかEPとかでじっくりと修練を積んでここに満を持してのファーストフルアルバムである。これが待たせただけあって凄いアルバムである。彼等の場合、まあギターポップと言えばそうなのだけれども、「〜風」とか一概には言えない。こういう音はこれまでの人生で滅茶苦茶一杯聴いてきたはずなのに似ている音が見当たらない。基本実にシンプルなギターサウンドと滅茶苦茶にポップなメロディ、隠し味風に鍵盤やらスティールパン(!)という感じなのだけれども、何だろうか。どっちかというと「ポップ職人」とかどうしようもない呼称で一括りにされがちな方々との共通点があるかも知れない。で、それが決して内に向うのではなくどこまでもきちんと「開かれている」というか。何かもしかしたらあまり色々なムーヴメントとかには乗っかりにくいバンドなのかも知れないのだけれども、このとことん爽やかなギターサウンドに乗せた歌はどこまでも普遍性があるわけで、この調子で道を極めていって欲しいものだ、とかそういう偉そうなことを思ったりもするのであった。それこそTrash Can Sinatasのように、とか無責任に思うのである。この夏はMystery Jetsと共に過ごす、とか言っていたけれどもこいつらと過ごすのも悪くない、と心から思う。