1963

Joy Division」という映画を見た。

これは先日見た「コントロール」とは違い、ドキュメンタリーである。まあ、「コントロール」も伝記をベースにしているので事実をなぞる感じではあったが、やはり映画ならではの演出等はあったわけで。だから、今回のはストーリーがどうこう、というのはなく、関係者の証言と当時のテレビ出演時やライヴの映像を軸にJoy Divisionのスタートから終焉までを追いかけるような作りであった。

とくに目新しいエピソードがあったわけではなく、20年くらい前に『クロスビート』誌で初めて歴史について触れてから幾度となく目に、耳にしてきたエピソードが多い。それでも関係者達が語る事実は、Joy Divisionというバンドの当時の立ち位置やIan Curtisという人間についての生々しい姿を、想像していたよりも遥かにはっきりとこちらに伝えてくれていたので、90分強全く飽きずに見れたのだった。

個人的にはPeter Hookが豪快なキャラながらも若干その後のバンドに於ける違和感を表明している点や(本当にNew Orderから脱退してしまったのだろうか)、Cabaret VoltaireのRichard H. Kirk、Crispy AmbulanceのAlanとかそういう周辺バンドの方々の今の姿などをスクリーンで見ることが出来て面白かった。そしてGenesis P. Oridgeがばっちりメイクで、女性になって出てきてIanとの思い出を語ったりしているのは、何だかこう、時間は確かに流れたのだなあ、としみじみした。余談だが、Genesis氏の発言が字幕で「〜だわ」とかなっていて、おおなんと的を得た字幕なのだ!と感動したが、別に本当にどうでも良いことである。あと本当にどうでも良いと言えばどうでも良いし、しかしとても大事なこととして、Ian Curtisの愛人として御馴染み、そしてCrepsculeレーベル創立者との絡みでも御馴染みのアニーク・オノレが本当に実際にもとても美しい人で、何だかうおおとなった。

しかし「24アワー・パーティ・ピープル」24アワー・パーティ・ピープル「コントロール」と来て今回のドキュメンタリーで、不思議なことにJoy Divisionというのは(演じられているものであれ、本物であれ)スクリーンが似合うバンド、という印象が強まったのであった。それはIanの私生活のエピソードとか、早すぎる自死の話とか、はたまたFactoryレコードやMartin Hannettとの絡みとか、様々な側面から見てそう思うのだが、しかし何よりもライヴの凄まじさが印象的である。それは俳優が演じているものでもそうなのだけれども、やはり本家本元の演奏やらステージングやらが凄まじい。エネルギーの塊みたいなものが飛び出してくるような印象を受けたものである。それは多分Ian Curtisの動きの異様さもあるのだが、それを抜きに考えてもNew Orderではこうはならない。時代のせいもあるのかも知れないのだけれども、何かが始まるような感じが、30年近く経った今見てもビンビンに感じられるような気がするのだった。

そしてそれは意外に早く始まって終わってしまったのだけれども。

でも不思議なことにJoy Divisionの映画を見てから聴きたくなったのは、JDではなく、New Order、しかもライヴ音源だったりするのだから不思議だ。ということで「Retro」というボックスセットを聴く。2002年にリリースされた4枚組(初回UK盤は5枚組)である。各ディスク毎に「Pop」「Fan」「Club」「Live」と分けられていて、なかなかに面白い編集である。中でも「Club」はM-PeopleのというかQuando Quangoのメンバーで例のハシェンダでDJをしていたMike Pickeringが、「Live」はBobby Gilespieがメンバーと共に選曲していて、そこら辺も面白い。で、「Pop」「Fan」は各々ベスト盤的、裏ベスト盤的選曲で結構広く楽しめるし、「Club」だと限定12インチで出ていたヴァージョンだの聴いたことないヴァージョンだの出てきて、まあ普通にNew Orderを聴くぞ、という時に聴くとちょっとアレだけれども面白い。個人的にはいまだにDJ的なことをする時にはかける確率の高い「Fine Time」のSteve 'Silk' Hurleyリミックスが入っていて盛り上がる。で、ライヴである。これがですね、今までヘタだヘタだと思っていて、実際上手くはないのだけれども、この打ち込みとかシーケンサーを使っていても物凄く素朴に歌が入りギターが鳴りベースが鳴る、という展開が何故か今は泣ける。何かこう、不器用にもやっていこうとしたあのJoy Division直後の戸惑いがそのまま何十年も抱えられたままに彼らは活動していたのかも知れないな、とか変に気持ち悪い感情移入してしまったのだと思う。ということで演奏は際どいのに無理やりに煽り、それに観客も応えて盛り上がっている最近のライヴに於ける「Temptation」とか、何故か目頭が熱くなるのだなあ。と思い入れのみで聴いて色々考えてみました。