Warwick Avenue

私は毎晩食後の食器洗いをしているのだが、これが意外に楽しくやっているのである。

人によってはとても面倒くさいことなのだろうけれども、私はこの大量にシンクに重ねられた(まあ、量の程度は色々あるが)食器類が1つ1つ洗われてあげられていく過程が好きである。また、どれから洗おうか、と順番を考えるのもとても楽しい。別に無理して楽しもうとしているのではない。実にテンションが上がるのである。まあたまにグラスを割ってしまったり、という悲劇もあったりするのだが、概ね平和な感じで過ぎていく。

さて、そんな中で私はなんで食器洗い、一般的には面倒くさいといわれる食器洗いを楽しめるのか、しかも何故、実は多ければ多いほど楽しめるのか、と考えていた。実はマゾヒスティックな快感に打ち震えていたりしていて、隠れた性癖のせいなのか、とか深く悩んだりもしたのであるが。

要は私が片付けが苦手なのだからだと思う。その点、食器洗いは限られた量を結構短時間でさくさくとクリアーにできるから、そういう手軽な「片付けカタルシス」が得られるからなのではないか。たまに部屋の積み重なったCDやレコ棚の前に置かれたレコ群とかをさらっと整理した後は何だか快感なわけであるが、それのもっともっとお手軽なヴァージョンのカタルシス、それが毎晩の食器洗いで得られているのであろう。要は、こんな人間だから得がたい悦びに楽しみを見出しているのである。しかもこの「毎晩食器洗いをしている」ということを他人に話すと何故か誉められるので、何だか一挙両得だったりして実に良いなあ。でも食器洗いとか、別に至極当然なことだと思うのだけれども、まだまだ日本も変に家庭内役割分担の空気が残っているのだなあ、と感じる。誉められれば嬉しいのだけれども何だか複雑な気持ちになる。私なぞはピュアな悦びのためにやっているのに、世の男性陣はかなり無理やりやらせられていたりするものなのだろうか。想像もつかないのだけれども。

Duffyの「Rockferry」は良いアルバムである。Duffyなんて、どんだけ紛らわしい名前なんだ!!とちょっと前には立腹していたのだが(古い人間なもので、The Lilac Timeの彼、しか思い出せなかったのである)、このデビュー盤は実によくできたポップソウルのアルバムである。ところで最近Bernard Butlerはプロデューサーとして異常なくらい引っ張りだこなのだが、彼の凄くオーセンティックなポップ趣味のようなものが今の時代にマッチしているのかも知れない。傑作だったSons And DaughtersのアルバムThis GiftとかBlack KidsのシングルI'm Not Gonna Teach Your... [7 inch Analog]とか聴いて思ったのだが、このアルバムを聴いて確信したのであった。とは言え4曲くらいにしか絡んではいないのだけれども。でもそういうプロデューサー云々の前に何よりも彼女の声が実に滋味深い。若い故に若干のやんちゃさもあって、そこら辺はAdeleとかとは違うのだけれども、地に足の着いたやんちゃさでも言うべきか、既に「大物女性シンガーが若い時に出したアルバム」的な風格が漂っているのである。太めのソウルフルな美声でありながら、表情豊かで凄く可愛らしかったりするし。そして彼女の声を活かしきった曲の良さも特筆ものであろう。どの曲も印象的なフックがバッシバシ散りばめられていて、かなりのインパクトである。で、そういうのって飽きやすいのが常なように思うのだが、このアルバムはそういうこともなく、聴けば聴くほど味が出るのである。Dusty Springfieldが比較対象としては最も近いのかも知れないが、まだまだ違う魅力も見せてくれそうな、そんな可能性も秘めたデビュー作である。なんかストリングスとかの入り方も絶妙で、無理なくまとめられているのが逆にスリリングなんだなあ。