Beautiful Love

「コントロール」という映画を見てきた。

これはJoy Divisionイアン・カーティスを描いた映画で、彼の奥様、デボラ・カーティスの『タッチング・フロム・ア・ディスタンス』タッチング・フロム・ア・ディスタンス―イアン・カーティスとジョイ・ディヴィジョンを原作としている。しかも監督はアントン・コービン、という何だかその情報だけで盛り上がらざるをえないのであった。とは言え、結末が結末なので(しかも誰もが知っている結末なので)何だか重苦しい気持ちに支配されたのであった。

彼の自殺の直接の原因はわからない。病気か女かビッグになりすぎたか、という感じで「コントロール」中でもいろいろ含みを持たせているが、この映画を見ていると、何だか女性問題がデカイのう、という気になってしまうのであった。それは原作本ではそこまでは(当然)描かれてはいないのだが、「映画」のノリとしてはそういう悲劇的な結末に至る危険な恋愛、という要素がデカイ気がするのであった。つまり「事実」とか「原作本」というものはあるのだけれども、「映画」としてはこの方向性、というのが実に明確に出ていたように思う。これは意見が別れるところであろうが、これはこれで良いのではないだろうか。ドキュメンタリー映画を見ているわけではなく、事実をベースにした本をベースにした映画、なのだから。半端にこちらが知識を持っていると何だか混乱しがちであるのだが。

全てモノクロで、とくに街並みや港などの風景の映像が大変に美しく、実に飽きることなく2時間近く楽しめた。これ、Joy Divisionとかに全く思い入れがない人が見ても、上記のような感じで受け取って楽しめるのではないだろうか、とか思うのだが、そう考えるとイアン・カーティスの人生があまりにもドラマティックだったのか、それとも原作が良い感じだったのか、はたまた映画としての演出やら何やらが優れているのだろうか、と思わせられる。多分その3つが全て作用しているのだろうけれども。

ただ、この映画では、妻と愛人では明らかに愛人の方が美人過ぎで、ちょっとそこの差のつけ方(事実なのかも知れないのだけれども)が気になった次第である、って下らない話かも知れないが。ただ、「妻の視点」での原作本なのに結構客観的に描いているように感じられるこの映画故に、ちょっと気になったのであった。ちなみにベルギー人である愛人はベルギーのCrepsculeレーベルとFactoryレーベルの関係に於いて重要な役割を果たしていたわけで、そこら辺のことを踏まえてこの映画を見ると、なんだかこう、燃えるのであった、って単に変態なだけなのか私が。そういうニューウェーヴ視点からいくとCrispy Ambulanceのヴォーカルがイアンの代役でステージに立つシーンとか、ちょっと可哀想すぎじゃね、とか思えるのであったがまあ、戯言である。

ということでこの映画を実に楽しんだわけであるが、最終的に私が持った感想というのは2つあって、「不器用な男は不倫しちゃいかん」ということと「The Killersってちょっとどうなのよ?」ということであった。そんな感想しか出てこない自分が悲しいのだが、いずれにせよ見ておくべき映画であることは間違いない。というか仙台ではやっと見れたので多分大抵の人はもう今更そんなこと言われても、という感じなのだろうが。

今度はJDドキュメンタリーも上映されるみたいなのでそちらも見なければ、と思いつついる日々である。ということで思いっきりJoy Division熱は上がったのだが、またもう一方ではJulian Cope熱が激烈である。「Peggy Suicide」を聴く。91年のアナログでは2枚組みだった大作である。この作品の前がどポップな「My Nation Underground」My Nation Undergroundだったので、何故その後こんなにとッ散らかったような、しかもあまり取っ付き易くはない感じの作品に・・・、と当時は衝撃を受けたものだが、今聴くとこれが全くそんなこともなく実にポップで優れた大傑作なのである。思えばその間に謎のレコーディング作品とかあったりしたもんなあ、ということを今思い出したが、それにしても今聴くと実に全体的に内省的なムードは強いが、ダンスビート(当時はあまり印象的ではなかったが)は結構前面に出ているわ、メロディは美しいわ、と全くもって当時聴いた時とは印象が違う。高校生のガキにはちょっと難しかったのだろうか。でも歌詞の内容やアルバムのテーマは反カトリック的だったり、車社会批判だったり、とかなり激烈さを増して行っていて(勿論それだけではないのだけれども)この後の展開を考えるとある意味彼自身にとってもレコード会社にとってもトリガーになった作品なのだろうな、という気がする。でも全然取っ付きにくくはなく、寧ろ1曲毎にヴァラエティ豊かなポップソングが並んでいるので聴き応えもあるのがこの男の凄さ、または怖さを象徴しているのであった。ちなみに2008年現在でもここに収められたビートは全然古びておらず、ちょっと驚いてクレジットを見たらHugoth Nicholsonの名が。コイツはあれではないか、Andrew Weatherallとかと組んで(それこそBoy's Own期)名リミックスを連発していた、インディ・ダンス〜マンチェ期に欠かせないあの男ではないか、と改めて衝撃を受けたのであった。