Forbidden City

我が街の駅裏にどうも新しい、しかも大きい立ち飲み屋がオープンしたようである。その名も「政宗」。ボケようがないネーミングである。そして店頭には「将軍」とか書かれた提灯がぶら下がっている。この狂おしいセンスはどうにも嫌いになれない。

私はその店の前を車で通るだけなのだが、オープンしたての頃は大きな花輪が飾ってあったり、外までサラリーマン風の客が溢れていたり、でなかなかに盛り上がっていたようなのであるが、最近前を通ると、客が1人か2人しかおらず、店員の数の方が多い。加えて店がかなり大きいので、なんとも寂寥感溢れる光景になっている。なのに、「バイト募集」のチラシが貼ってあったりして、別に経営に参画とかしていないのに大丈夫だろうか、と心配になってきたりする。

まあ、そんな店なのだが、何が一番私の心を撃ったかと言えば、「男なら酒で天下を取れ」とかいうでっかい文言が掲げてあるのである。これには驚いた、というかあまりの衝撃に開いた口が塞がらなかった。この狂おしいセンスはどうにも嫌いになれない。

しかし、酒で天下を取る、って。意味は分からないが、何か潔いアティテュードを感じることができる、と今まさにビール500ml缶を空けて焼酎のロックをわはははは、という勢いで飲んでいる私は思うのだった。まあ、これまで酒で天下を取りかけたことはあったが、結局は前後不覚になったり、電車で寝倒して知らない駅で降りたり、家の前の駐車場で寝たり、と結局「酒で下克上に遭った」私としては、何と言うか励まされているような、そういう気分になったりしたのだ、って阿呆か。

まあ結局まだその立ち飲み屋には行ってないし、多分今後も行く機会がないとは思うのだが、頑張ってもらいたいものである。久々に突き抜けた店が登場したものだなあ、と嬉しくなったのは久々である。

とまあ結局は傍観者なわけだが、唐突にElectronicの「Raise The Pressure」を聴く。言わずと知れたNew OrderのBernard SumnerとThe SmithsだのThe Theだの何だの、のJohnny Marrのユニット、セカンドアルバムである。96年作なのである。何だか急にElectronicの意義を探りたくなって聴いているのだった。89年のシングルデビュー、そして91年のアルバムデビュー時には「スーパーユニットの筈なのになんだこのユルイテンションは」とかその度に色々言われて叩かれていたわけであるが、今作では何よりも、生音のナンバーが増えたのが特徴か。しかも異常に抜けの良い、爽快な、最早ギターポップと呼んでも差し支えないような、そんなナンバーが冒頭に配されていてまずはそれだけで何だか盛り上がってしまうのであった。そう、このアルバムからのシングルともなった冒頭2曲のギター主導の爽やかっぷりは本当に衝撃であった。曲もまるで、ネオアコ、とか呼ばれたバンドの楽曲群のようによく練られているし。しかし段々とアルバムが進むにつれて打ち込みの比重が増えて、アシッドな感じのビートとベースに信じられないような音色のシンセが絡む、ギリギリのところでイタイ感じを回避しているような際どいナンバーが連続するのがこのアルバムの不気味で、且つ愛おしいところでもある。それらのナンバーと冒頭2曲のギャップがあまりにも激しすぎてこのアルバムの印象を散漫なものにしているような気がしてならず、ちょっと残念なところではある。しかしそれでもNew Order直系の哀愁メロディは全編に響き渡るし、ツボを押さえすぎて最早よくわからないJohnny Marrのギターも全編で聴こえるといえば聴こえる。まあ、スーパーに成りすぎた各々の本体からちょっと離れてリラックス、みたいな意図があったかどうかは知らないが、そういう感じは伝わってくるような、結局のところユルイアルバムである。でも嫌いになれないのだから、猛烈に性質が悪い愛くるしさで満ちているのであった。ちなみに元Kraftwerk、当時Elektic MusicのKarl Bartosが結構な割合で参加し、曲作りにも携わっている。その携わっている曲の中には冒頭2曲のバンドサウンドナンバーも含まれているわけだから不思議というか何と言うか。結局Electronicとしては、どれもがどうにも中途半端で、全然スペシャルなところは何もないのに、何故か不思議と愛らしい、という3枚のアルバムを残したわけだが、その半端さ加減がこのユニットの不気味な魅力でもあったのかも知れない、と考えると唯一無二の存在だったのだなあ、としみじみ感じるのだった。