Busses From Heaven

tdsgk2007-08-04


今日も生命の危険を感じるくらいに暑かったのだった。

しかし、この数ヶ月何だかドラマでしかお目にかかったないようなエピソードが私と私の家族を襲っていたのだが、今日は実際に私もそのようなエピソードを体感したのだった。しかしそうなると人間不思議なもので「面白いなあ」と言う感情しか生まれてこないものなのだった。なかなか体験できるようなことではないので、半ば面白がっていたのだが、何か人間色々いるのだなあ、としみじみ思った。

と同時に、これまでずーっと自分のことを下等な人間、と思って生きてきたのだが、意外に世の中もっともっと下等で、しかもそれを自覚せずに底辺のレヴェルを蠢いている人間共がいる、しかもかなり多数いる、ということを今日理解して、傲慢ながらも自分に自信を持つと同時に何かちょっとホッとしたのであった。

しかし人間下を見れば見るほど自分もその「下」へと近づいていってしまうものなので、これは心して上向きに己を保たねばならないのだなあ、と気を引き締めつつKip Hanrahanの「Beautiful Scars」を聴く。あら?あららら?という良い意味の違和感を持つこと必至の新作である。ここまで彼の作品はメロウで、メロディアスで上品なものだったのだろうか?デビュー作やらその次作やらを愛聴してきた私としては、良い意味で衝撃を受ける新作であった。Brandon Rossをはじめとするヴォーカリスト陣の声はどこまでも甘く、そしてメロディと相俟って異様なまでのメロウネスをかもし出している。今までの彼の作品はパーカッションのビートを中心に曲を作っていったかのような、パーカッシヴでキレがありながらも、紋切り型のメロウネスとは無縁だったはずである。ところが今作はヴォーカル陣の甘い性質も相俟って、どこまでも甘く、官能的な作品に仕上がっている。ドライというよりはウェット、「点」というよりは「線」のような、ムード溢れる曲ばかりで正直のけぞったのである。しかしそれは決して、断じて悪い意味で、ということではない。今まで彼のアルバムのジャケットに象徴されていた「黒さ」「暗さ」は今回も健在ながらも、どこか紅が差しているような、そういう良い塩梅の作品に仕上がっている。それでもやっぱり曲の進行とは無関係に鳴り響く多種多様なパーカッションの音は、一歩手前の地点でこの作品を引っ張って止めているような、そういう感覚に溢れていて、大層スリリングである。ちょっと背伸びして、「夜の雰囲気はうんたらかんたら」とか言いたくなる餓鬼がわんさか出てきてもなんら不思議ではない作品であるが、どこか心にスッと入り込んでくる感覚としては、過去最高のレヴェルである。間違えて「夜の湾岸をドライヴするのに最適なメロウアルバム」とか言いたくなる気持ちもわからんでもない、過剰なまでのロマンティシズムに溢れたアルバムなのである。ホーンセクションやらストリングスがここまで濃厚に絡んでくる作品も稀有だと思う。そして相変わらずの、シャキッと立っているような音の録り方であるがゆえ、実に安心しきって夜に身を委ねることのできる作品である。もしかしたら今までの作品の中でもぶっち切りの(表面上は)分かりやすい穏やかさに溢れた1枚。

ってこんなに感動的な傑作なのにamazonにないのかよ!!(←ありました・・・。難癖つけてすみません。)