Gospel

クロッシング・ザ・ブリッジ」という映画を見てきた。これはトルコの音楽シーンを、なんと表現したら良いのだろうか、ざっくりと、新旧交えて紹介するような、そういう映画である。

路上で歌う方々やら、最早往年の大歌手的貫禄を持つ方々、思いっきりパンキッシュなロックを聴かせるバンド、超早口のラップを聴かせるヒップホッパー、ブレイクダンサー、など様々なアーティストが出てくる。まあ、別にストーリーがあるわけではなく、ドキュメンタリーフィルム、と言っても過言ではないであろう。

別に興味も何もなければ、ふーん、とかと言って終わってしまいそうなものであるが、これがまた面白いのである。現地ではクルド人問題もあったりして、そこら辺も絡めているのだが、どのアーティストも母国語でガンガンに歌ったりラップしまくったりしていて、そして母国に大いに拘りを持っていて、決してパクってどうこう、という問題ではない健康的なシーン、とか呼べそうなものがあるのだなあ、としみじみ感動したのであった。

トルコの音楽は何だか割り切れない拍子が特徴らしく、話によると8分の9拍子が一般的らしい。しかもその拍子が一定しない、という非常に演奏者だったら慣れるまでは大変そうな世界であるが、聴いている分には非常にその微妙な「揺らぎ」のようなものが心地よかったりする。勿論、そういう要素を全く取り入れていない音楽もここでは紹介されているのだが、どこかしらビート感は、何と言うかあまり詳しくはないのであるが、西洋のそれとは明らかに異なる気がしたのであった。

と、思わずTシャツまで買ってしまうくらい楽しめる映画であったが、この映画のストーリーテラー的な役割を果たしているのはEinsturzende NeubautenのAlexander Hackeなのである。彼がトルコ音楽に魅せられ、その魅力の原因を探るために現地でレコーディングしたりセッションしたり、という形式を取って映画が進行していくので、いわば「主演」的な役割である。まあ、私がこの映画を見に行った最大の原因は、もう勘の鋭い方ならおわかりかと思うのだが彼のため、である。しかし「ジャーマンニューウェーヴ界きっての美男子」と言われた彼もいつの間にやら(まあEinsturzende NeubautenのCDブックレット写真やらなにやらである程度予想はできていたものの)野獣のような、もしくはプロレスラーのような感じになっていて愕然としたものである。ううむ。髭は剃った方が・・・、と。

まあ、彼の存在抜きには語ることのできない(少なくとも極私的には)映画であるが、今まで全く触れることのなかったトルコの音楽シーンの片鱗が覗けただけでも、凄く面白い経験ができた。また、2時間近い間全く飽きることがなかったので、大満足の映画である。まあ、ここからこっち方面にどっぷり、ということにはならないであろうが、俄然興味は湧いてきたのである。んー、ニューウェーヴが好きだと色々広がるものだなあ・・・。

とか言いながら全く上とは関係なくCharlie Sextonの「Cruel And Gentle Things」を聴く。所謂チャリ坊、と呼ばれていた彼も38歳だそうである。そんな彼がマイナーレーベルからリリースしていた作品が最近日本盤化されたので聴いている。思えばデビューは86年で、確か17歳くらいだったように記憶している。その件のファーストアルバム以来全く彼の音楽に触れていなかったのだが、その間にもソロアルバムやら弟達とのバンド、Bob DylanDavid Bowieのバッキング、Lucinda Williams等のプロデュース、と精力的に活動していたわけである。で、このアルバムであるが、実に渋い、落ち着いたアーシーなロックンロールアルバムに仕上がっている。スロー、ミディアムテンポのナンバーが大半を占めるが、音の具合も生々しく、またメロディも大らかで聴いていて何だかホッとできるのである。アクースティックギターやピアノがあくまで主役を張っていてそこら辺の響きの問題もあるのかも知れない。そして本人のヴォーカルも、思えば昔も歳に似合わぬ渋い声だったが、今では何と言うか、その歳に見合った声に聴こえる、というかこの声に似合う音楽をできるようになっているようで、ハマる所に全てのピースがハマったような、そんなアルバムである。あのCharlie Sextonの、という観点もアリだとは思うのだが、それ以上に、もっと単純に、良質なシンガーソングライターのアルバムとして楽しめる1枚。