The Drum

私は頭がデカイ故に、帽子が被れないわけである。

ちなみにデカイ、というのは顔も含めて「頭部がデカイ」という形容の方がニートな気もするがどうでも良い。とにかく帽子のサイズが「58.5cm」とか表示してあって、いくら店員さんに「結構大きいサイズですからゆとりありますよ」なんて甘言で誘われたとしても、被ってみれば孫悟空の頭を締め付けるバンドの如くに私の頭をギュウと締め付ける代物ばかりだったので諦めていたのであった。

でもたまに暑い日なぞ、また髪の毛がどうしてもポワンポワンと浮いているような日なぞは、嗚呼帽子があれば、と嘆く私であった。そんな中、ステキな帽子と運命的な出会いをしたのであった。やはりサイズは58.5cm。無理だろな、とか思って苦々しく思っていたら店員さんが、「サイズはお直しできますよ」との一言。「2,3cmは余裕です」というので「じゃあ限界ギリギリまででかくしてください」とお願いして購入することに相成った。

見ると、まるで昔の拷問器具のような、木製の器具を帽子の中に入れてどんどん、ギリギリのところまで大きくしていくのであった。この器具についてここで描写しても上手く伝わらないであろうところが非常にもどかしいのだが、とにかく何故か不思議と、そんなプリミティヴな器具でもって帽子の頭周りのところを押し広げていくと、あら不思議、私の頭がきちんと帽子の中に収まったのである。

感動である。齢32にして初めて自らの意志で選んだ帽子を被ることができるようになったのである。その帽子を被る私の目には、人知れず涙が溢れていたのであった。

まあ寝癖がどうしても落ち着かない日にはこれだな、とかお洒落と程遠い文脈で喜ばしい点もあるのだが、そんな感動と共にSlapp Happyの「Slapp Happy」を聴く。一般的には「Casablanca Moon」というタイトルで、そしてCDではサードアルバムとのカップリングで出ていることでも御馴染みのセカンドアルバムである。元々ファーストと同じジャーマンポリドール用にFaustらとレコーディングしたが却下されて、録音しなおしてVirginから出ることになった激しく曰くつきの1974年作品である。その却下音源は「Acnalbasac Noom」としてリリースされているが、そちらの話はまた今度。今作は「敢えてポップに聴こえる音楽を作る」という狙いのもとに作られた作品である。これで、狙いすぎのつまらん作品だったら私が今こうして耳にすることもないであろうが、本当に完璧なポップ、でもちょっと変な音楽になっているのだからこいつら恐ろしいというか何と言うか。何よりもどの曲が哀愁を帯びた美しいメロディで彩られており、それが過不足ないアレンジとバッキングで演奏されるわけだから間違いないわけである。加えてDagmar Krause嬢のヴォーカルも、ありえないほどのハイトーンから、優しげな語り掛けるようなヴォーカルまで表情豊かに使い分けており、いくら狙ったからと言ってこれはセンスと技術で裏打ちされてなければここまでの作品にはならなかったであろう、という何だか複雑な生い立ちのポップスアルバムである。男性陣ヴォーカルはクセありすぎだが、それとて良いバランスと感じられるくらいの決まりようである。グループの成り立ちとか位置づけとか、そういうところから考えて行くとどうしてもカルト的な存在になりがちな彼等であるが、本作は拍子抜けしてしまうほどポップで美しい、名作。