まぼろし

今日、夜、留守にする同居人からメールが入り「今日22時からのテレビ番組の予約をしておいて欲しい」とのことだった。

私は人一倍気を使う人間なので、こういう頼まれごとは完璧に遂行せねば気が済まない。ということで21時前には帰宅し、着替えるよりも、手を洗うよりも、うがいをするよりも、コンタクトレンズを外すよりも、空腹を満たすよりも前にテレビの前に座り、我が家自慢のHDDレコーダーのリモコンを操作していたのであった。

笑いたくば笑え、これが多分人付き合いの基本なのだ、少なくとも私の場合、とか半ば自嘲気味になりながら予約を遂行すると、「予約内容が重複しています」というメッセージが画面に現れたのであった。

確認してみるとしっかりと「毎週予約」ということで当該の番組の録画予約がなされていたのであった。その後ラーメンを食べに出かけ、自宅でビールを飲んで今は半ば酩酊であるのは言うまでもない。

そしてそんな風に私の夜の計画を木っ端微塵にしたテレビ番組が「山田太郎ものがたり」であるなんてことは口が裂けても言えない。

とほほ。畠山美由紀の「Summer Clouds, Summer Rain」を聴く。Norah Jones関係で御馴染みのJesse Harrisのギターやらバンジョーやらと、彼女の声と口笛のみで作られた、シンプルにも程があるアルバムである。そして、ある意味狙いすぎ、と言えば狙いすぎかもなあ、と思わざるを得ないアルバムである。しかしこれがやっぱり、どんだけ聴く前から予想がついていたにしろ、傑作なのだから恐れ入る。もう上記の説明だけで多分アルバム全体の説明は完全に終了したと言っても過言ではない作品である。でも実際聴いてみると、異常なまでに畠山嬢(気仙沼の星)の伸びやかな歌声と、Jesse楽曲やJesse演奏が見事なまでにマッチしていて、実はこういう作品前にもあったっけ、とか思わず己の記憶を疑いたくなるくらいである。音楽の教科書にも載っている「浜辺の歌」やらNeil YoungやらThe Beatlesやらのカヴァーもたまらないものがあるのだが、個人的にはHank Williams「I'm So Lonesome I Could Cry」のカヴァーがドキュン、であった。古今東西、それこそJohnny Cash&Nick CaveやらCowboy Junkies、そして今のとこぶっちぎりで最高のDiamanda Galasなど、多数この曲のカヴァーがあれど、ここまでまっすぐで、それでいて不思議と新鮮なカヴァーもなかったなあ、と。新しい刺激だ何だとか、そういう文脈のみで音楽を聴く人には全然ピンと来ないかも知れないのだが、シンプルでいて豊潤なアルバム。