Apnea Obstructiva

この間、「音楽がうるさい」とか言われて自室の玄関に潜んでいた隣人に刺された男の人のニュースを何かで読んだのだが。

まあ、その隣人はどうやら客観的に情報をまとめてみればガイキチであるのは間違いないのであるが、隣室がうるさいなー、とか感じるのは別にガイキチでなくてもアパート暮らしの方なら絶対あるはずである。

以前我が隣室は何だかよくわからない男女2人組が住んでいて、メゾネットタイプの階段上り下りはうるさいわ、2人の会話はやんのかこの、的なケンカ口調でうるさいわ、で閉口していたのだが、平和な3人家族が越してきてからは実に平穏である。

しかし我が住居も5世帯暮らしているが、最近考えてみたら3世帯ほど小さなお子様がいるような環境になっており、意外に足音とか、アクティヴな動きの音とか結構響くのである。まあ、それは健全な成長の証、として微笑ましく見守るしかないと思うのだが、そういう「ガキ」という免罪符がないのは2世帯のみである。その内1世帯が我が家であるわけで、大丈夫であろうか。隣人に殺意を抱かれるほど音楽うるさくないだろうか。若しくは不快感を与えていないであろうか、とふと心配になるわけである。先ほどもJandekの1981年作「Later On」を爆音で聴きながら料理して食事して飲酒していたわけだし。どっちかというと「うるさい」というよりは「聴こえて不快だ」という苦情とかの方がきそうであるが。

で、今はSavath&Savalasの「Golden Pollen」を聴いている。様々な名義を使い分けるスコット・ヘレンのうたものユニットの新作である。私は他の名義もまあ、嫌いではないのだがあまり熱心なリスナーとは言えない。しかしこのSavath&Salavasはファーストの静謐、且つ有機的なインストで虜になって以来、彼の中で一番好きなユニットなのである。前作とか前々作とかのWarpからの諸作品はちょっと付け焼刃的な印象が拭えずあまり入り込めなかったものだが、このAnti移籍(!)第一弾の新作は、何だか深いところにずーん、と入り込んでくるアルバムなのである。ほぼ全編に渡って彼のスペイン語によるヴォーカルが大フィーチャーされており、ここではビート職人としての彼の姿よりは、複雑なコードの曲をスペイン語で歌いこなすシンガーソングライター的姿が浮き彫りになっている。個人的にはこれが大正解で、何だかソフトサイケ(しかもダーク目)的な、幽玄な感じがビンビンに響いてきて心地よい。全編アクースティックギターの響きが印象的なところもこれに拍車をかけているように思われる。一聴すると実に素朴な、内省的なブラジル〜南米フォークに聴こえたりもするのだが、その一番表に出ている素朴な面は、あくまで氷山の一角でよくよく聴くと異常に深ーい作りこまれた音像の上で浮かび上がってきているのだから恐れ入る。まあ、John McEntireとかBattlesとかTown And Countryの面々が参加、と言ってもさほど話題にもならなくなりつつある昨今であるが、このアルバムに於けるストリングスの調べとか各生楽器の印象的な響き、そして深い深いサウンドスケープには大きく一役買っていることには間違いないであろう。たまに幽玄すぎて怖かったりもするくらいであるが、同時に素朴な響きも聴こえるのだから、実にバランスが取れた作品と言えるであろう。