I Am John

最近、さすがの私でも記憶力が低下してきたように思える。

私の場合それを痛感するのは、主にレコード屋でのことであるが、昔の記憶はきちんと整理されている。だから中古盤屋で黒色エレジーの12インチを発見すれば、昔の『ロッキン・オン』のレヴューが瞬時に思い出され、「あ、スジバンみたいな日本のバンドね」とかいう感じで一件落着、なのである。しかし、どうにも最近の、新しいものが覚えられなかったりする。

この間『WIRE』のインタヴューとかレヴューで読んで、凄く面白そうで興味を持ったアーティストのCDとかレコードを探そうにも、どうにもアーティスト名が思い出せなかったりする。また、友人から実生活上で、またはネット上で教えてもらったアーティストに凄く興味を持ったのに、いざ店頭に行くとすぽーんとその名前を忘れていたりする。

まあたいていの場合、思い出したところで店頭になかったりするのがオチなのであるが、これは由々しき事態である。日ごろメモとか手帳とか持ち歩いたりしないし、携帯電話の機能もフルに活用しているとは言い難い私としては、この記憶力のみが頼りであるにもかかわらず、その唯一の機能が不調なわけである。

まあ、そろそろそういうもの使っておきなさい、他の場面でもそろそろ必要ですよ、というメッセージなのかも知れない、と厳粛に受け止めてLoney, Dearの「Loney, Noir」を聴く。このアーティスト名もなかなか覚えられず、というか勘違いして覚えていたらしく、店頭に足を運ぶこと約3回、やっと発見できたのであった。スウェーデンの1人ユニットのアルバムフロムSub Pop、である。これが良いのである。何というか10年近く前はこういう感じでもっと安っぽいの一杯いたよなあ、RocketshipとかHollandとかさ・・・、という感じである。というと変な先入観を与えてしまいそうであるが、こちらはもっとスケールが大きく、王道ポップス的路線を進んでいるような感じである。メロディがとにかくよく練られていて、一度聴いただけなのに次の展開を思い出せるような、そういう大層インパクトの強いメロディをさらり、と聴かせてくれている。ちょっぴりがちゃがちゃとしながらも、謎の高揚感を煽るバッキングも凄く良い塩梅である。ヴォーカルの声質とかも含めてBelle And Sebastianの初期を想起させるような、そういうざっくりとしながらも、しっかりと練られている、そんな音楽である。なんだか次作でも大変なことやらかしてくれそうだなあ、という不思議なワクワク感をこちらに与えてくれるような、そういうポップスがぎゅっと詰まっていて嬉しくなったりさせられる。