The Ties That Bind

「情けは人の為ならず」という言葉が好きである。

何が好きか、と言えば勿論内容もそうなのであるが、思わず最初は「他の人に情けはかけてやるべきではない、他の人のためにはならないのだから」と解釈してしまいがちな、そういうところが大好きである。

まあ、意味を最初取り違え、実はそういう意味ではない、という風に自分の中で訂正されるもののインパクト、忘れにくさ、というものは相当なものがある。言葉に限らず、第一印象での認識と、その後の認識がかなり異なる人、モノ、というものも自分の中では大きな存在になったりすることが多い。普段は突っ張ってばかりの不良が、雨に濡れる捨て犬にフッと見せる優しさに、多分大方の女子がクラッと行くのも多分そういうことなのである。

予想を裏切る、というかそういう感じの方が人には強烈な印象を残すものなのである。嗚呼、私も捨て犬に優しさを見せる不良のように、そういう強烈な印象を与えられたら良いのになあ、と日々考えながら暮らしているが、残念なことにどうやら私の場合、そういうこともなく見たまんま、であるからして望むべくもないことなのであった。

とグダグダに6月をスタート。Bruce Springsteenの「The River」を聴くのら。1980年リリースの5枚目のアルバム、2枚組の作品である。いやー素直に心に染みる。音の方は作りこまれておらず、これは一発録りなのか、と思わず感じるほどのラフな音をしている。決してダラッとしているわけではない。ライヴでの勢いをそのままに作品に落とし込んだような、そういうイキの良さが隅々から感じられて痛快である。曲も粒揃いで、バラード〜スローナンバーも、ドライヴ感溢れるロックンロールも、どの曲からも、どこをどう切っても見えるSpringsteen印が印象的である。ディスク2枚に渡るヴォリュームながらもあっという間に終わってしまうような、そういう密度の濃い時間を約束してくれるアルバムである。しかし歌詞は、ちょっとその痛快な感じとは一線を画す、悲しいドラマ、どこか憂鬱な、痛切なラヴソング、鬱屈した日常とそこからの解放、という感じで続くので歌詞だけ読んでるとどんだけ沈鬱なアルバムなんだろ、と思わずにはいられないのだった。ところでこのアルバムの歌詞には「車」が沢山出てくるが、それが決してお気楽なものを象徴しているのではなく、事故った車だったり、盗んだ車だったり、人生の最後に乗りたい車だったり、恋人を連れ去る車だったり、家族を置き去りにしていく男が運転する車だったり、痛切に手に入れたいものだったり、とかなり重い意味を付与されているのだった。まあ、それはさておき、後追いSpringsteenファンとしてはどこか印象が薄いアルバムではあったが、実は今の気分にはしっくり来る名作であった。「Hungry Heart」で不覚にも涙。