If You Love Somebody Set Them Free

「ラブソングができるまで」という映画を見た。

落ち目の80年代ポップスターが、今をときめくアイドルに曲を提供することになり、それに伴いひょんなことから作詞の才能のある女性と知り合い、曲が出来上がって恋も出来上がって、でもその後ちょっと色々あって結果的にハッピーエンド、という、こうして字面に起こしてしまうと、ありゃそんなもんだったっけか、というような、そういう映画である。

しかし。だがしかし。があああ感動させられたのである、多分女性アイドルがプロフィールとかで「好きな映画」とかに挙げても全く違和感ないような、ラヴコメ映画に。ストーリーがシンプルであればあるほど、逆に嫌味ではない映像の感じで、逸脱することもなくシンプルにまとめることって難しいのかも知れないのだが、そこら辺が実に決まっていて良かったのである。シンプルなものをシンプルに、物足りないことなく作る、って意外に難しいこと(別に映画に限らず、一般的に)かもしれないがこの映画は、まずキャラクターがきちんと立った主役陣を中心に置いて、そこからブレることなく進めているから良かったんだろうなあ、としみじみ思うのだった。

と同時に、ヒュー・グラントが80年代に一世を風靡したグループのメンバー役、という設定であるところからして小ネタが私のような人間にはビシビシ来るのであった。REOスピードワゴンとかフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド、とかアダム・アント対ビリー・アイドル、とかいう固有名詞だけでもかなりお腹一杯になってしまう私は何なんだろうか、と思ったりしたのである。ちなみに誰も気づかなかったかも知れないが、エンドロールでなんか「Additional Vocals」みたいな役割で「Martin Fry」という名前があってのけぞったのである。ABCの彼なのだろうか・・・?

という感じではあるが、ひとつだけ苦言を呈するとすれば、そのヒュー・グラントがいたグループのプロモーションヴィデオが実に80年代の雰囲気を上手く伝えているような、なかなかに秀逸なPVであったのだが、しかしあれは「2000年代的見地から80年代をパロディ化した」ようなヴィデオである。多分よほど狙ったようなバンドでない限り、ギターとベースとドラムスの連中がのこのこフロント2人に対する盛り上げ役的な感じで踊ったりはしないはずである。そこだけがちょっと残念なところである。何を偉そうに、と思われるかも知れないが毎週スカパーで「80年代洋楽ヴィデオ」を見ている私が言うのだから間違いないのである、うむ。ちょっとそこだけが過剰で残念であった。

しかしドリュー・バリモアは「ウェディング・シンガー」といい、「50回のファーストキス」といい、80年代ポップスと相性が良いのであろうか。とくに後者のサントラは80年代ヒット曲をレゲー風にカヴァー、という実に秀逸なサントラ50 First Datesだったので是非ご一聴をおススメしたい。80年代ポップスといえどもEcho And The BunnymenとかThe Psychedelic FursとかThe CureとかModern EnglishとかBryan Ferryとかだったりするから堪らない、という話もあるのだが。まあ、どうでも良い話ではあるが、そういう小ネタ抜きでも充分に楽しめる、見た後になんか満たされた気分になれる映画であった。

Stingの「The Dream Of The Blue Turtles」を聴く。彼のソロ第一弾アルバムである。確か仙台にタワーレコードが出来た頃のリリースだから85年の作品である。何故か聴きたくなって、安価で発見できたので聴いているが、驚いたのは全曲知っていたことである。レンタルレコードで借りたりしていたのであろうか・・・?当時はジャズ系のミュージシャンが参加して、ジャズ風のサウンドが聴ける、ということが結構話題になっていたように思える。確かにBranford Marsalisが参加していたり、それ風なインストはあるのだが、そこまでジャズの臭いが強いということでもない。逆にストレートに曲の良さが伝わってくるような、シンプルなアレンジが大変印象的である。またメロディがどの曲もくっきりはっきりしていて、そういう曲の強さもかなりこのアルバムの特徴と言えるだろう。昔聴いた時は何かピンと来なかった地味目の曲が今聴くと、ガツンと来たりして、己の成長も確認できるような、そういう発見もあったりした。それにしてもレゲー風の「Love Is The Seventh Wave」はやっぱり名曲だなあ、と思って聴いていたら後半で「Every Breath You Take」の歌詞が出てきたりして、そういうちょっとユーモアのある、肩の力が抜けた感じもこのアルバムの魅力である。