Nothing

イカとクジラ」という映画を見てきたのであった。余談であるが、最近結構映画を見ているように思っている。まあ、上には上は勿論いるわけであるが(福島とかにいる)、今月もあと2本は見る予定である。

さて、この「イカとクジラ」であるが、舞台は86年のブルックリン、作家夫婦(夫は落ち目、妻は新進気鋭)と2人の息子の物語である。要は両親が離婚することになって、ということに纏わるエトセトラ+兄弟2人の成長(?)譚、という考えてみればごくごくシンプルなストーリーなのであるが、随所に散りばめられた文学、映画、音楽ネタが大変にスパイスとなっていて、一癖も二癖も大いにある映画になっているのだった。

まあ、あまり多くを言い過ぎるとこれから見るであろう方に申し訳ないのであまり言わないようにしておこうと思うが、大変に面白くてあっという間に終わってしまった。実際エンディングも「これで終わりなの?」というくらいあっさりと(しかし余韻はしっかりと)しているのでその思いが募るものである。しかし、長男が父親への盲目的な追従を抜け出して自分で何かをしていこう、という強い意志が感じられて何故かジーンとなる、印象的なエンディングであった。

ただ、結構クスクス笑いながら見ていたのだが、こういう風に色々な文学作品とか映画とか音楽とか、そういうことを織り交ぜながら(会話だの何だのに)絡めながら生活していると、いつしかそれらのことに関して独善的になりがちになってしまう、ということをある意味批判的に描いている(まあ、そんな深刻なものではないのだが)風にも感じられるので、下手すりゃ自分も無意識のうちにこういうことやってしまっているのではないか、と思わせられてちょっと気を引き締めなければ、という気にさせられたのだった。まあ、他人のフリ見て我がフリ直せ、ということである。そうなっていないことを私個人としては願うばかりなのであるが。

ということで実は家庭の崩壊と、それがもたらす子供への影響、などをがっつりと描いているのにも関わらず、実に淡々と、時にユーモラスに描いているのですんなりと入り込んでくるし、こちらもすんなりと入り込める、とても良い映画であった。こないだ見た「キング 罪の王」ががっつりとこちらに切り込んでくる強烈な映画だったので、何かバランスが取れたというか何と言うか。

ちなみに音楽を担当しているのは元LunaのDeanとその彼女(末期Lunaのベースですね)。これがまた絶妙な選曲でBert JanschにKate And Anna McGarrigle、The Feeliesといった感じで実に素晴らしい。とくにエンディングが凄くて、Lou ReedからLoudon WainwrightⅢ、という流れというのは通常ありえないよなあ、とか色々唸らせられたのであった。そういう面でも実に大満足の映画であった。

Lee Hazlewoodの「Cake Or Death」を聴く。Nancy Sinatraのデュエット相手としても超御馴染みのシンガーソングライターの、ラストアルバムになるらしい最新作である。まあ、77歳であるからして・・・。彼の曲は本人のアルバム、そしてNancyへの提供曲などで聴いているのだが、これがかなり癖のある、それでいてすんなりとこちらに入ってくる楽曲ばかりなので麻薬的な魅力があるのう、とか思っていたらラストかあ。と寂しくもなるのだが、この作品を聴けばまだまだ行けるんじゃないのですか、と思わざるを得ないくらい絶好調である。だからこそ駄目になる前に引退、ということなのかも知れないのだが・・・。あの超低いハリのある美声も全然普通に健在であるし、盟友Duanne Eddyとかが参加したバックも過不足ない感じで大いに素晴らしい。Nancyへの提供曲「にくい貴方」も元々のオリジナルメロディでセルフカヴァーしているし、「Some Velvet Morning」を8歳の孫娘に歌わせたり、とかそういう伝家の宝刀系ネタもあるのだが、それらが寧ろ別になくても他の楽曲自体の持つド迫力だけで充分にメガトン級のアルバムである。しかも中にはクラシックの名曲をコラージュしてやっているとんでもなく突き抜けたナンバーもあったり、で度肝を抜かれたりもするし。曲者ぶりはしっかり健在、なのが嬉しい1枚。