Money Becomes King

「キング 罪の王」という映画を見た。

これがまた、ここ最近見た(数少ない)映画の中で最もグッと来る映画であった。ストーリー的には全く、本当に全く救いようがない、出口なしの映画なのであるが。

海兵隊を除隊した青年が、まだ見ぬ父を訪ねていくのだが、父は今では牧師になっており、家族がある。そこで冷たく彼は拒絶され、そこから復讐劇が始まる、という話なのである。まあ、これだけでも充分救いようがないのであるが、全部見終わると本当に、なんだかなー、という気持ちにある。

しかしそれでも面白いのは、この映画が実に「映画として」よくできていて面白いから、全く引くこともなく「そうか、こういうこともあるよね(否、ないのだけれども普通は)」という風に納得して見ていくことができるのである。

そして上で一応「復讐」と書いては見たものの、本当に綿密な計画に沿ったものなのかどうか、そしてもともと最初っから復讐するつもりだったのだろうか、偶然が重なって結果的に復讐になっていっているのではないだろうか、とか色々考えるところも多く、実に深い映画であった。だから色々考えているうちに気づくと残り10分くらいになっていて、そこからの畳みかけがまた凄まじく、と同時になんか意外にさっぱりとしていて、そこら辺の不思議な感触もこの映画の淡々とした感じに一役買っていると思う。余りにも静かにストーリーが展開しているものだから、実は結構激しい話な筈なのに何だか変な感じである。

牧師一家の極端に敬虔な感じと主人公との対比もまた面白く、本当に「良い映画を見たなー」という不思議な爽快感が味わえる映画であった。ただ、あまり他の人に「見たほうが良いよー」と大声でなかなかおススメはできないような、そんな気がする、ストーリー的に。それでも私としては、ちょっとした空いた時間を縫って車飛ばして見に行く価値が大いにあったわけである、と敢えて断言したいのだけれども。

Tom Petty And The Heartbreakersの「The Last DJ」を聴く。近所の書店で新品が激安だったもので思わず。2002年の作品である。Tom Pettyのソロとかは聴いていたしバンドとしても何曲かは聴いていたものの、アルバムとしてガツンと聴くのは初めてである。まあ、アメリカンロックである。しかし私は彼等、というかTom Pettyにはどこか弱っちい印象が感じられて、そこが好きなのである。マッチョだぜ、という勢いではなく、音は太いが意外に繊細なところがビシビシと感じられるのである。ルックスも何か細くてそんな感じであるし。どうやらコンセプトアルバムらしい今作でもやはりその印象は変わらず、抜けも良いし、力強い音ではあるのにどこか完全にはカラッとはしていないような、そういうちょっとしたところがポイントなのだと思う。The Byrdsを聴く時にも感じられる、どこか弱みがあるような、そういう音である。歌詞は強烈に皮肉が効いているし、メロディも切ないものが多く涙腺を大いに刺激してくれるし、George Drakouliasのプロデュースもツボを抑えていて実にしっくりと来る傑作だと思う。ちなみに日本盤で買ったのだが、ライナーは全く何を言いたいのか、これっぽっちも理解できなかった。私が阿呆になってきているのか、書き手が駄目なのか。多分書き手だ。