Fireball

実は昨日は、仕事後に猛ダッシュを決め、雨の中高橋幸宏のライヴに行ってきたのであった。

私は実はYMOにはあまり思い入れはなく、寧ろ坂本龍一のソロ作であるとか、高橋幸宏のソロ作とかの方が大好きなのである。今回はこの間の幸宏氏のアルバムがとても良かった、というのとSteve Jansen見たさに足を運んだのであった。

一言で言えば、とても素晴らしいライヴであった。ドラマーが2人もいるのに全くドラムは使わず、ラップトップというか、そういう高度にコンピュータライズされたセットでの、幸宏氏のMCの言葉を借りれば「インプロヴィゼーション」主体のライヴであった。何せ本編では幸宏氏はMCでしかマイクを使っていなかった。つまり、ヴォーカルものは全くなかったわけである。

ということで新作に入ってる音が断片的に使われていた部分を除けば、全くの新曲を聴かされたわけである。今回の仙台、そして初台でのライヴはこの間までのツアーの番外編らしく、全く別物であったらしい。ということでまっさらな状態で、しかもラップトップものかよ・・・、着いていけるのか・・・、という不安もあったのだがこれがまた、インプロ主体と言えども、しっかりと泣かせるコードやら、パーカッシヴな展開、そして5人もいて演奏しているので非常に有機的に絡み合い(とくに高野寛のギターが良かった)、とてもとっつきやすい音楽であったように思える。

しかし。まあ、確かに平日の夜で、仕事やらなにやら後の方が多かったのだろうが、私の周りでは爆睡率が高かった。これまた幸宏氏のMCの言葉を借りれば「気持ちよくなった」結果なのだろうが、それって一体、と思わざるを得なかった。だって金払ってるんだぜ(ってそういう理由かよ)!

アンコールは「Cue」。ここで初めて幸宏氏のヴォーカルが聴けたわけで、年齢層高めの客席からは狂喜の歓声が上がっていた。原曲とほぼ変わらぬアレンジではあったが、そこはかとなく現代的な匂いがするのは、YMOの先見性か、今回のセットのクオリティの高さか。いずれにせよ、今更ながらYMOに興味を持った私であった。

ということで前座的な出方のHer Space Holidayも含め、凄く満足のいくライヴであった。ちなみにHSHは、時にスリーピースになったりして結構ダイナミックな音で良い意味で印象が変わった。曲にしろルックスから来るイメージ、声にしてもThe Lightning Seedsを想起させてくれた。ということはとても素晴らしかった、ということと全く同義である。

ただ、幸宏氏の古くからのファンはちょっと複雑な思いだったのではないか、ということを大きなお世話ながら感じた次第である。

で、全く関係なくTransmissionの「Transmission」を聴く。これは皆様に、おこがましくも騙されたと思って聴いた方が良いぜ!と断言したい1枚。最近Rhys ChathamやらAlastair Galbraithなどたまらんリリースを続けるTable Of Elementsのサブレーベル、Radiumからのリリースである。これは1981年から82年にかけてレコーディングされた、未発表のEPの発掘である。ドラムスとサックスのデュオなのであるが、流石はSwansのオリジナルメンバー!とんでもない音楽を聴かせてくれる。まずは怒涛の乱れ打ちのドコドコ言う爆音ドラムに打ちのめされ(っていうか音が割れるくらいでかい)、そこに絡む、物凄いディストーションギターのような、頭おかしいようなサックスにぶっ飛ばされる。こんな凄い音のサックスってPeter Brotzmannの「Machinegun」以来だ、と言っても過言ではないくらいの音である。PILの「Flowers Of Romance」のもっとアグレッシヴなヴァージョン、というか、どことなく呪術的な、トランス状態に入ってしまうような、そういう激烈な音楽。とにかく何だこりゃー、とかのけぞっているとあっという間に終わってしまう、恍惚の1枚。ライナーによると「Brian JonesのJajoukaがSwansなみの熱狂のテンションで演奏されるような」とあるが、まあ兎に角Lightning Boltよりも20年以上前にこんなのがあったのか、と思うと恐ろしい気がしてくる次第である。ちょっと他では聴けない、怒涛のハイテンション音楽である。今秋の熱狂盤決定。ちなみにメンバーのJonathan Kaneは前述のRhys Chathamのバックでドラムを叩いていたりするし、この間のソロアルバムもSonic Youthを思わせるほどの格好良さで現役バリバリなのであったりする。深ぇ。