Some Small Hope

「ニューヨーク・ドール」なる映画を見てきたのであった。まあ、映画なのではあるが、ドキュメンタリーのような。

要するにNew York Dollsのベーシスト、アーサー・ケインの、バンド脱退(というかクビというか)〜その後〜再結成、という流れを振り返りながらの映画なのである。多分元々は映画的には再結成でドカーン、とエンディング、というのが原案だったのだろうがとんでもないエンディングを迎えるのである。これはあくまでノンフィクションであるのに、どんなフィクションよりも泣ける展開の映画になってしまっていて、それがまた胸に迫る。

しかしこの間見たThe Pogues、というかShaneの映画が非常に中途半端で下らない、時間と金返せ、と思わず泣きそうになったことに比べると、この映画は「事実は小説よりも奇なり」を地で行く映画である。というかNew York Dollsを聴いていても聴いていなくても、知っていても知らなくても、それどころか音楽に興味があってもなくても、全然関係なく面白いのではないか、という気にさせる凄い映画である。バンド脱退→零落→自殺未遂(というか墜落?)→モルモン教徒に改宗→再結成のため質入れしたベースを取り戻す、というその流れだけでも大泣きである。それなのに更に、という展開なのだから。

まあ、多分誰もがエンディングは知っていると思うのだが敢えてネタバレを避けるために言及はしない。それよりも、Tony James(Generation X〜Sigue Sigue Sputnik〜The Sisters Of Mercy)の老けっぷりと、Sky Saxonの近影、Don Lettsの白髪交じりのドレッド、そしてNew York Dollsの影響を受けたバンドが云々、のくだりでほぼ誰も識別できないくらいカメラが引いてから現れるSimple Mindsの「New Gold Dream」のジャケット、とかそういう意味で泣ける部分も多々あった。そして大いに語りまくる元ファンクラブ会長Morrisseyとか。やっぱりそういう楽しみ方もできる映画なのであった。我が街では1週間くらいしか公開していないようなので、もし興味があったら急いだ方が良いと思う。

それでNew York Dollsも聴いていたのだが、Virginia Astleyの「Hope In A Darkened Heart」を聴く。最近ではSilent Poetsのアルバムに参加していたり、藤原ヒロシのミックスCDに収録されていたなあ・・・。86年の一応サードアルバムである。何故「一応」かというとそれまでのアルバムが編集盤のようなものだったりミニアルバムだったりするからなのだ。彼女はキーボーディストとしてもRichard Jobsonやらなにやらの作品にも参加したり、また自身の作品でもインスト主体のものが多かったりするのだが、このアルバムでは非常に可憐な歌声を聴かせてくれる。この声がまた、あまり聴いたことのないような、少年合唱団的な、というかボーイソプラノ的な美しい声なのである。そしてまたその声が可憐なメロディを歌うのだから当時はCocteau Twinsとかのファンに、とかいう宣伝文句がよく見かけられたものである。しかしああいう神がかり的な感じではなく、もっと身近な、敢えて言うならば体温を感じる美声、である。加えて本作は坂本龍一がプロデュースを手がけたり、David Sylvianがデュエットで参加したり、とドえらいことになったりもしているのである。それまでは牧歌的な、室内楽的音楽を奏でていた彼女のムードはそのままにエレクトロニクス主体の音楽に以降したのがこの作品、とも言える。坂本さん、今更ではあるがグッジョブ、なのである。ちょっとこれからの季節に聴くのにもぴったりのあったかめの音楽である。