Hands

実はこんなに寝つきの良い人間もいないだろう、というほどに毎晩爆睡の私であるが、先週の木曜日辺りから寝つきが悪くなり、また日頃は滅多に見ないのに変な夢を連続で見たり、ということでちょっと体調が停滞気味だったのである。

まあ、それも全て原因がわかっているから良いのだ。Primal Screamのライヴに行って来たのだ。まさかおらほの町さ来てくれるなんて夢にも思わなかったのでもうドキドキしまくりであったのだ。一応備えて「All Fall Down」から一通り聴いた。絶対やるはずのない「Sonic Flower Groove」も「Primal Scream」もしっかり聴いてしまったのだった。

ステージに上がったメンバーを見て、Maniは体格が良いなあAndrew Innesは最早単なるおっちゃんにしか見えないなあ今回はRobert Youngは来てないのが残念だなあギターの奴若いなあMartin DuffyはFeltの「Bubblegum Perfume」のブックレットで見たのに近い輪郭だなあ、とか感慨に耽ったものであるが、黒サングラスでガリガリに細いBobby Gillespieさんは最早みうらじゅんのような勢いであった。まあロックスター然としていた、というか。

「Movin' On Up」からスタート、という世代的にはたまらないオープニングであったが、この曲が今回のセットでは最古の曲であった。「Screamadelica」も過去のものなんだよなあ、とか思いつつライヴを楽しんだが、どうにもイマイチ響いてこないのである。メンバーも凄く楽しそうにやっているし、結構アグレッシヴなのだが、如何せんPAのせいだろうか、何か音の輪郭がはっきりしなくてギターばっかり聴こえてきたり、という状態でちょっと残念であった。ベースが聴こえ辛いしバックヴォーカルも聴こえ辛いしドラムも埋没している、というPA故に、ああもっと音に迫力があれば・・・、という状態であった。

楽しみに楽しみにしていたのに・・・、と悲しい気持ちで一杯ではあったがここ最近のアルバムのロックンロール路線の曲をほぼ間髪入れずにドカドカ演奏していくPrimal Screamは非常に逞しかった。また途中でThe Doorsの「The End」を歌いこんだりPink Floydの「Lucifer Sam」をギターが奏でたり、はたまた「Kowalski」の途中ではBobbyが「ダモ鈴木ダモ鈴木!」と歌いこんだり(これは絶対こう歌っていたのだが、私以外の誰も賛同してくれなくて非常に不安である)、という音楽ファンがえらいことになってこうなった、的なスタンスも見て取れて非常に微笑ましかった。

アンコールも2回あって、これまたスタジオ盤より高速でたたきつけるような演奏で、唖然とした。カヴァーとかあるかなあ、と思っていたら「Gimme Some Truth」を高速でやっておお、良いねえ、と思ったらManiが聴き覚えのあるベースラインを弾き始めThe Damnedの「Neat Neat Neat」に、かなりグダグダながらも突入したときには大興奮した。かなりグダグダな感じであったが、勢いだけはある、という謎のヴァージョンで面白かった。

ということでPAは非常に残念だったけれども、今ではどえらいロックンロールバンドになっているんだなあ、ということが確認できて今のバンドの状態がわかる、楽しいライヴであった。というか楽しみにしすぎていただけに、これからどうやって暮らしていけば良いのか、何かここ数ヶ月の人生の指針を失ってしまったような、そんな気分である。

しかしそんな喪失感を埋めるべくVenus Peterの「Crystalized」を聴く。何と再結成して新作、なのである。解散したのはもう12年も前の話、ということを最近思い出しショッキングであったが。で、この新作である。あまり期待なんかしてなかったのである。いや、活動していた当時のアルバムも悪くはないが、いまいち全部を肯定できるような感じではないなあ、という感じであったから。しかし。だがしかし。嗚呼私が悪かった!!こんな素晴らしいアルバム、久々に聴いた、というくらいの気合いの入った作品で腰が抜けた。全曲英詞であるが、何よりも沖野俊太郎氏のヴォーカルが凄く良いのである。昔は何かソフト、というよりは頼りなさ過ぎたものだが、今作に於いては優しく、包容力のある、ジェントルなヴォーカルに変貌していて(声質は全く同じなのに)思わず聞き惚れてしまう。またギターのアンサンブルを中心に据えながらも曲はヴァラエティに富み、全てメロディアスで人懐っこいナンバーばかり、しかも構成的に結構盛り上げどころがしっかりあって本当に驚いた。今までのどのアルバムよりも素晴らしい、本当に傑作である。何かに「大人のロック」とか書いてあったけれども、そんな言葉から受ける印象なんかよりもっと青くて瑞々しくて、でもしっかりと落ち着いている、という奇跡の作品。今年聴いたアルバムで良かった10枚の中には必ず入るなあ・・・。リアルタイムで好きだった人は勿論だし、聴いたことないけど名前だけは知ってる、とかいう人が聴いても絶対に楽しめる作品である。1年間の期間限定再結成だから気合い入ったのだろうか。