Yellowcake

『タッチング・フロム・ア・ディスタンス』タッチング・フロム・ア・ディスタンス―イアン・カーティスとジョイ・ディヴィジョンという本を今日一気に読み終えてしまった。

日頃だらだらと本を読む私であるが、この本はうおおおおおというテンションで読みきってしまったのであった。Joy DivisionIan Curtisの未亡人が書いた本なのである。当然ながら我々が知りえない、家庭内の当事者ならではの話が一杯で全く飽きることなく、Ian Curtisに思いを馳せつつ読みきった。

別に暴露本、というテンションのものではない。なかなか波乱に満ちた家庭生活であったようであるが、それがさしてセンセーショナルに書かれていないのは著者のDeborah Curtisが、彼の自殺から15年を経てある程度落ち着いて当時を振り返ることができたからであろう。中には非常にグッと来るエピソードもあってThe Durutti Columnのファーストアルバムの紙やすりをJoy Divisionのメンバーが皆で貼り付けた、という話はかなり有名であるがほとんどIan Curtis1人が、小遣い欲しさに頑張っていた、ということとか(ということは我が家にあるこのThe Durutti Columnの紙やすりジャケはIanが貼ったものなのかもしれないなあ・・・)。まあ、これはウケる人にしかウケないネタではあるが、他にもJoy Divisionの音楽を聴いて好きだ、と思った人とか映画「24アワー・パーティ・ピープル」を見て、実際はどうだったのだろう、とか思った人にはビシバシと入ってくる本に間違いない。

まあ、そういう面から捉えることもできるが、私は読み進むにつれて胸が締め付けられる思いであった。著者の置かれていた状況がどのように辛いものだったのか感情移入したのもその一つであるが、ここまでプライヴェートなことを死後に発表されて、それがまた日本語に訳されたりする気分って、勿論知る由もないのだが、どんな気分なんだろうなあ、と思い始めたら止まらなくなってしまったのである。決して上記のとおり、暴露本、ということではないのだけれども、痛いエピソードが多く、何だか本当にノンフィクションというよりもよくできた小説を読んでいるような、そういう気分になったりした。

そうだなあ、読後感としては「Love Will Tear Us Apart」を生まれて初めて聴いた時に感じた、何とも言えない胸を締め付けられる感じに近い、と言うこともできるかも知れない。もうちょっとで涙が出てきそうになってしまうような。

ちなみに本書の中でIanの愛人として出てくるアニック、という女性はCrepsculeレーベル創立グループの1人だよなあ、とか思い出した。そういう楽しみ方もできるし、そっちの方面から色々なエピソードを拾っていくこともできるけれども、まずは何よりも見事に事実が物語と化してしまったIan Curtisの人生とその家族のことを考えて切なくなるのが正しい読み方なのかも知れない。秋の夜長のお供、にしてはへヴィかも知れないが、読んだ後のこの何とも言えない気持ちはなかなかな稀有な体験ではないのだろうか。

Kaki Kingの「...Until We Felt Red」を聴く。サードアルバムである。思いっきりこれ以前の作品はノーチェックであったが、超絶テクニックの女性ギタリストである、という噂は聞いたことがある。さて、今作であるが何とプロデュースがJohn McEntireである。そして今まではインスト中心だったらしいのだが、今作では大々的に彼女のヴォーカルがフィーチャーされている。まあ、何せ今までの作品を聴いたことがないから比較だの何だのできないのではあるが、彼女のヴォーカルを大フィーチャーしたのは大正解だったのではないだろうか。彼女の声がですね、Vashti Bunyanですか、それともLushの方ですか、とか言いたくなるような、浮世離れしたキュートなヴォーカルで多分萌え率はかなり高いはず。そして全体的にSea And Cakeのようなもんわりとした柔らかなサウンドなのだが、それを時に乱すように、また時にはそれに調和するように彼女の弾くギターやらスティールギターが入ってくるので、甘いだけではないスリリングな瞬間を何度も味わえる。またそのギターが、タッピングがビシバシ入っていたり、何か異常な早弾きだったり、と流石に達者なので舌を巻く。インスト曲とヴォーカル曲のバランスも程よく、全体は濃密なのに重苦しくない、という世界が完成されている。フォーク風な曲から所謂ポストロックとかいう感じの音までヴァラエティも意外に豊かで、思わぬ収穫である。って言うか曲が凄く良いのが強みなのである。