Ahead

間章に関しては、私はあまり多くのことを知らない。もちろん彼の名前やどういう人間だったかを知ったのは、彼の没後であるし、Derek BaileyやSteve Lacy、Brigitte Fontaineその他諸々のレコードのライナーで読んだ彼の文章は、あまりにも難解で、たぶんその内容の3%も理解できていないのではないか、と思われる。しかし、それでも間章、という人間についての話は様々な本で読んだりする限り、とても興味を惹かれるものだし私の中では常に気になる存在なのであった。

我が街仙台でこんな催し物がある。これは見ておきたいものだ、と強く思ったのだった。青山真治監督で、間章に関してのドキュメンタリー映画だなんて、これは常に気になる存在である彼のことをしっかりと理解できるきっかけになることは間違いないだろう、と興奮したのだった。

しかし、しかしだ。上映時間7時間、というのはこれまた激し過ぎる。土日の2日間上映、と言われてもまず土曜日は仕事である。少なくとも前半部は丸々見ることができない。では日曜日に全てを見ることが可能か、と問われればちょっと不可能である。

なぜなら我が家に結婚式の引き出物のアイスクリームが届く故に、待機していなければならないのだ・・・。

嗚呼!こんな日々の雑事に追われ、偉大な批評家(最早思想家の域に近いか)に触れることができないだなんて!畜生、金か、金があれば仕事もせず、また家にはお手伝いさんを置いて、宅急便をしっかり受け取ってもらいその上で冷凍庫に入れてもらったりして間章に触れる日曜日を過ごすことができるのか!

否、所詮は言い訳に過ぎぬ。自らの精進が足りぬが故に、この7時間にも及ぶドキュメンタリー映画を見ることはできない。こんな形で間章が私に試練を課してくるとは思いもしなかったが故に、茫然自失である。「ランチに出かける」感じで見に行けるフィルムだったらどれだけ私の気も楽だっただろうか・・・。そのようなものにはさせなかったのが間章、というものなのだろうか。

まあ、結局はね、アイスクリームが大事だ、と私が判断したわけである。しかし、これは私にとってみれば、アイスクリームに対して、間章の斗いと同種の悲壮な覚悟を持って臨んでいることの証明である。この悲壮感の程度は並々ならぬものがある故に、彼もわかってくれるのではないだろうか・・・。

DVDが出たら必ず買います。自分の都合の良い時間に都合よく見たいと思います。馬鹿野郎、7時間の映画作ってるんじゃねえよ、とここでせいぜい悪態をついておきたいところであるが、これは私の悔しさ・悲しさの裏返しであることは書かずとも理解していただけるかと期待している。

Wireの「The Ideal Copy」を聴く。87年の再結成第一弾アルバムである。前年暮れにEPがリリースされて、そのEPもCDにはボーナストラックとして収録されている。私がリアルタイムでWireを聴いたのはこの時期である。多分、Wireと言えば初期、というか第一期のパンクの香りがむんむんながらひねた音楽をやっていた頃が今のニューウェーヴ再評価の文脈とか色々鑑みて一番有名だし人気があるのだろうけれども、叙情性と実験性が思いっきり混ぜこぜになったこの再結成時(86年〜91年くらい)の音源も、なかなか陽の目は見ないだろうし人気もないだろうけれども非常に捨てがたいものがある。Colin Newmanが歌うと優しいメロディのポップな楽曲が際立ち、Graham Lewisが歌うと思えばパンク上がりだもんなあ、そりゃ硬派だよなあ、と思い知らされる感じになる。しかしいずれにせよ、どの曲もメロディが立っている。これは「Chair's Missing」あたりからも感じ取れることだが、彼らはサビのメロディが非常に素晴らしい。その素晴らしさはこの作品でもしっかりと引き出されていて、聴くたびに耳にすっと馴染んでくるのである。「ロックじゃなければなんでもいい」とか言い放った連中に対して「優しい」だのなんだのも見当違いも良いとこかとは思うのだが、実際そう感じられるナンバーが存在しているのだからしょうがない。泣けたりもしますよ、とか小声で言いたい。同路線の次作も同じようにグッとくるのである。まあ、基本エレポップ寄りの音作り(しっかりバンドサウンドなのだが、どこか人工的な感じがしたり)なので「あのWire」という認識で今から聴き始めると肩透かしを喰らうかもしれないが、それを補って余りある素晴らしい作品。