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私は飛行機が嫌いだし、とくに自分が住んでいる土地以外にはあまり魅力を感じることもないので旅行なぞも(自らの意志では)しないのだが、海外には2度ほど、仕事で行ったことがある。2回ともカナダであるが。

2回目に行った時に1泊したヴァンクーヴァーは、ガイドさんが言うには、「世界で一番中華料理が美味しい」らしい。最初ははて、何故だ、と疑問に思ったが、あれだ。あれあれ。香港が中国に返還される際に、香港の富裕層は皆ヴァンクーヴァーに転居したのだ。だからヴァンクーヴァーには中国人の方が多いのだが、そういう富裕層は中華料理に対する舌も肥えていて、それに従って必然的に同地の中華料理店のレヴェルも上がってしまったのだそうである。なるほど、客が店を育てる、ということなのだなあ、と思わせられる出来事である。

ところで最近CDとかレコードが昔ほど売れない、ということをよく聞く。そうか、みんなもう客が店に足を運ばなくなってしまったが故に、ここ最近の我が街のレコード屋は育てられることなく、どことなく停滞しているように感じられてしまうのだろうか。中古、新品、ともに業界全体が低迷しているような感じは否めないのだけれども、大型店以外では、ほんの数軒を除いてなんとなく寂しさが漂う店になってしまっているのが、私のような「なるべく地元でお買い物」志向の強い人間には寂しく、辛いものがある。ほんの5年〜10年くらい前は結構この街のレコード屋事情も盛り上がっていたように思えるのだがなあ。

まあ私だけそう感じているだけであって、実はそんなこともないのかも知れない。でも、単に私が買いたいものがあんまりない、ということだけではなく、ちょっと雰囲気が悪い、というか澱んでるなあ、と感じられたりするのが寂しい。レコード屋さんに行くと、別に買わなくても何か楽しい、というかワクワクしていた少年だった私としては。

Johnny Cashの「American V: A Hundred Highways」を聴く。彼の残っていた音源はボックスセット「Unearthed」(必聴!)Unearthedで全て出尽くした、と思っていたのだがまだ残っていたとは。これは彼が死の直前まで取り組んでいた音源をRick Rubinが加工してリリース、という作品らしい。しかし、そういう「死亡遊戯」状態ではあっても、まったく間違いなく、Johnny Cashの「American」シリーズの最後を飾るに相応しい作品になっている。ということでもちろんアクースティックギター中心の簡素なバッキングに彼の深いヴォーカルがのる、といういつもの作品になっているのは当然だ。ところで今作は彼の声が時に弱めな、消えそうな瞬間があったり、逆にここ最近こんなにではなかったのでは、というくらい太く深い低い声になったり、という風に彼の声のヴァリエーションが幅広いアルバムになっている。彼の体調によるところもあるのかも知れないのだが、どんなに弱い声であっても、それでもビンビンに「何か」が伝わってくる。ここでまたJohnny Cashという男の凄さを再認識するのであった。Bruce SpringsteenとかIan&Sylvia、Gordon Lightfoot、Hank Williamsらのカヴァーもアリ、というこのブレのなさには脱帽する。ちなみに我が高校の同級生で「歩く廃墟の街」というか「歩くノーディレクションホーム」というか、そういう名前をほしいままにしている友人の話によるとこの作品はビルボードで1位になっているそうだが、「史上最も少ない枚数で全米1位になったアルバム」らしい。やはり世界的に業界は停滞、ということなのだなあ・・・。まあ、そういうことに関係なく、素晴らしく、泣けるアルバムである。