Walk Of Life

そういえば昔は我が街に「セプテンバーソング」なる中古CD屋があったものだなあ、とふと思い出したきっかけがあったのだった。別なところでふと書いてみたのだけれども、色々思い出したのでここにも記そうと思ったのだった。

何故思い出したか、と言うと今ではブックオフで道草、ということを良くしている私の道草歴はいつくらいからなのかなあ、と考えてみたからであった。10何年前のこの「セプテンバーソング」に始まるのだなあ、と。まあ、つまりは今は亡きその店の幻影を私はブックオフに見ているのだな、と。大分店の趣は異なるのだけれども。

そう、「セプテンバーソング」はCD1000円、たまに750円、売れ残るとジャケにパンチ穴を開けて(冷静に考えるととんでもないことなのだけれども)500円、という非常に明朗なシステムを取っていたので、結構気軽に利用できる店だったのだ。そして店が学生当時の私の拠点にほど近い場所だったので帰宅途中とかにほぼ毎日寄っては色々探していたものだ。

まず何よりも品揃えがはちゃめちゃでオールジャンル買い取りしまくりだったが故に様々なものがあったのが一番の魅力だった。10年くらい前にはLo-Fiブームだの音響ブームだのが華やかなりし時期だったのだが、そこら辺もすぐに売りに出されたようで、ザックザク並んでいたものだ。新品で買えば2000円台後半のものも「セプテンバー」では1000円、という強烈な割安感が変に購買意欲をそそったりもしていただろう。

また、不思議なことに「これがありそうな気がする」とか思っていくと実際それがあったり、ということが一度ならず起こる店であった。これはいまだに謎であるが「Gumballの「Special Kiss」とかないかな、あったら良いな」とか思って行くとしっかりとある。「Brigitte Fontaineの「ラジオのように」ないかなー」とか思って行くと何故かある。思うに私はその時期に一生分の運を使い果たしてしまったのかも知れない。人間は一生のうち、魔法使いになる時期が必ずあると思うのだが、私はその時期が正にその「魔法使い期」だったのだろう。

でも店のオヤジは坊主頭で、別に怖い人間ではないのだが絶対に接客業に向いてないだろう、というくらいの無表情な人間だった。私は、彼が店の奥で同じように無表情な息子に夏休みの宿題を教えている光景を見たことがある。私は彼が店のバイトの女の子に「お店に入ってきたお客さんにいらっしゃいませ、って言わなくても良いから。カウンターにモノ持ってきたお客さんに初めて、いらっしゃいませ、って言ってください。」とかすごい接客マナーを教えているのを見たことがある。私のバイト時代の同僚からは、彼女は日の丸のステッカーが貼ってある車に追突したらしいのだが、中から無表情な彼が出てきて一目散に逃げた、ということを聞いたことがある。このように彼に纏わる話は枚挙に暇がない。一説では宇宙人ではないか、ということが私の周囲でまことしとやかに噂になったこともあったが、誰も否定できなかったように記憶している。

しかし私の衝撃の体験はLou Reedの「New York」を500円で買ってきたら、中身がNew Orderの「Movement」だったことだろうか。「New」しか合ってないし。しかも「Movement」は持ってるし。で、突き返しに行ったら、店内を探すこともせずに無表情にすみません、と言われて500円玉を返された、という事件だろうか。別にそれが原因ではないのだが、それ以降あまり足が向かなくなったように思う。多分私が魔法使いでなくなったことを宇宙人の彼が教えてくれたのだろうと思う。

最後に行った時にはジャズのCDが増え、バランスが悪すぎるくらいの量になっていた。しかも高くなっており、嗚呼私の「セプテンバーソング」は消えてしまったなあ、と思いながらNuphonicから出ていた「The Loft Vol.1」を買った記憶がある。2枚組だったから1500円くらいしたものだ。それから程なくしてだろうか、店がいつの間にか古着屋になっていたのは。

今でもその店の前を通ると、あの宇宙人のことを思い出す。そして自転車でKilling Jokeを買いに来ていた頃とか、ScannerとかSlapp HappyとかThe Bluebellsとか一律1000円で買っていた、あの魔法使いだった頃のことを懐かしく思い出したりするのである。

とまあ別に過剰にセンチメンタルになる必要は全くないのだが、Dire Straitsの「Brothers In Arms」を聴く。シングル曲は20年くらい昔、エアチェックして何回も何回も聴いたものだ。しかしアルバム通して聴くのは今回が初めてである。言わずと知れたモンスター級の大ヒットアルバムである。20年前のイギリスではこのアルバムのせいでCDプレイヤーの普及率がグンと上がった、という伝説まである。かように支持されていた彼らのアルバムであるが、私はこのアルバムの前は全く知らない。だからこのバンドがどういう捉えられ方をしていたのか全く分からない。まあ、それはそれだが。シングル曲の怒涛のインパクトに比べると他の曲は地味である。しかしそれは全く悪いことではなく、滋味がある、と言っても良いのだろうか。MTV揶揄でお馴染み「Money For Nothing」などは寧ろかなり異色の曲で、全体的に落ち着いたゆったりとしたアルバムである。多分昔の私にとってみれば退屈に聴こえたりしたのだが、当時イギリスでこのアルバムのためにCDプレイヤーを買った人々の年齢とほぼ同じくらいになってしまったであろう今となっては、そのゆったり流れる加減がたまらなく気持ちよいのだった。でもこのまま行くとStatus Quoとか普通に聴いてしまいそうでちょっと怖い気がしたりもするのだった・・・。