Forest Fire

外国の文学作品等の本を読んでいて、一番感じ入るのは、罵り言葉を日本語に訳した部分である、って私はおかしいですか。

これは難しい筈である。時代背景、文化的背景を反映した罵り言葉だってある筈だし、単にその語をそのまま日本語に置き換えて、という風には出来ないはずである。そしてそのまま訳したって面白くない筈である。だから、もしかしたら訳者のセンスとか力量が問われるのは、こういう罵り言葉の部分なのかもな、と全く無責任に思う私なのであった。

最近読んでいるセリーヌの『死体派』セリーヌの作品〈第11巻〉死体派は評論集ではあるものの、全編(他の彼の作品同様)なんだか呪詛の言葉チックみたいなものがふんだんに散りばめられている。否、罵り言葉、という観点から行くと最高の密度かも知れない。

「よぼよぼの老いぼれヤクザの淫売漁り!死に損ない!」まあ普通である。「ポンコツ助平!クズ拾い!」なんか凄くなってきた。「肥料用の細切れ肉蒲団!」最早罵り言葉なのか、わからなくなってきた。「胸糞わるい下等野郎!」なんとか小気味よく行こうとする訳者の努力が見える。「淫売イワシ!」イワシ!しかも淫売!何と斬新なフレーズなのだろうか・・・。多分直訳なのだろうが、日本語にすると異常な破壊力である。「軟体動物!あんたなんて、ゆらりゆらりさ!くたびれきった気体だよ!ひらひらの羽飾りさ!腸膜コンドームさ!泡ぶくさ!」ゆらりゆらり、って・・・。腸膜コンドームって・・・。何かヤケクソな勢いはある。

とまあ、かように訳者の力量というものはこういうところで出てくるかも知れない。この作品のこれら罵り言葉には、かなりの勢いがあってそこが素晴らしい。畳み掛けるような罵り言葉の応酬のスピード感、という点では実に良い訳なのだろう、って一体どんな評価なんだか。もしこれから外国の文学作品を読む機会があったら、そしてなんか口汚く罵るような場面とかがあったら、そこのスピード感みたいなものに着目して読んでみても面白いかも知れない。出来れば今の時代のではなく、ちょっと昔の作品が良いだろう。

ってそういうのが出てくる作品ばっかりでもないと思うのだが、何故か私の読む作品ではそういった罵り言葉が頻出している。それは読んでいる作品が問題なのだろうか。あまりそういうことは気にせずLloyd Coleの「Live At The BBC」を聴く。彼の95年のライヴ21曲と90年のスタジオライヴ4曲を合体させた2枚組である。バランスが悪いが、それだけが気になる点であって他には文句のつけようがないライヴ盤である。95年の方ではThe Commotions時代のギタリストNeil Clarkがギターを弾いていて、意外にかっちりと急ごしらえのバンドにしてはまとまった演奏を聴かせてくれる。The Velvet Undegroundのカヴァー2曲も含めて、勿論The Commotions時代の名曲も含めて、あっという間のCD1枚半である。しかしこうして聴くとLloyd Coleは決して上手いヴォーカリストではないのだが、自分の声の活かし方を知っている人なんだなあ、としみじみ思う。どの曲もスタジオ盤よりも生々しいヴォーカルでゾクゾクとさせられるのである。とくにThe Commotions時代の名曲「Jennifer She Said」冒頭の無伴奏のヴォーカルのみの部分とか思わずそこだけリピートしてしまうような、そういう感じである。まあ、VUの「Rock And Roll」のひ弱さはどことなく可愛らしく、憎めない感じではあるが。そして90年のスタジオライヴ音源ではギターにRobert QuineとMatthew Sweet、ということでかなーりへヴィなギターが炸裂していて、こちらもド迫力の演奏が楽しめる。The Commotions時代の「Perfect Skin」なぞ、「これでもか」という勢いでこってりとギンギンなアレンジになっていて、寧ろ痛快である。こちらでもLou Reedのナンバーをカヴァーしていて、何だか微笑ましい気持ちになってくる。しっかしバンド時代もソロ時代も見事に紡がれるメロディとしゃべくり唱法という路線は全く不変で、名曲しかないのには本当に驚かされる。1枚として聴く価値のないアルバムがない男なのだ、彼は。とまたもやあっついファン代表発言を・・・。